国際情勢・通商

シンポジウム「中国の産業政策と米中通商摩擦」を開催しました

右から川島研究主幹、梶谷研究委員、岡嵜研究委員、丁研究委員

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の中国情勢研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)は2月16日、シンポジウム「中国の産業政策と米中通商摩擦」をオンラインで開催しました。
梶谷懐研究委員(神戸大学大学院経済学研究科教授)が講演した後、川島研究主幹の進行のもと、岡嵜久実子研究委員(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)、丁可研究委員(ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)を加えた4人でパネル討議を行いました。概要は次のとおりです。

 
基調講演(梶谷研究委員)

中国の産業政策を契機に、国際社会では産業政策を巡る議論が再活発化している。米国をはじめ主要国が製造業を重視し直す背景に、中国の政策が一定の成果を上げたとの認識が広がったことがある。

中国の産業政策の特徴は、特定企業を支援するのではなく、市場全体を拡大させる「需要拡大型」アプローチにある。 新エネルギー車(NEV)が代表例で、購入補助金やインフラ整備といった最終需要を直接押し上げる施策を大規模に実施し、新規参入が増加した。規模の経済が働き、バッテリー等の中間財コストが大幅に低下した。最終需要の拡大が派生需要を生み、さらなるコスト低下と市場拡大につながる好循環が形成され、中国の産業成長を支えてきた。 一方、この仕組みは深刻な副作用も招いている。市場拡大を見込んだ企業が殺到した結果、需要を大幅に上回る生産能力が形成された。

この過当競争の状況は「内巻」と呼ばれているが、国内の余剰製品は輸出へと回り、通商摩擦の火種ともなっている。中国政府は無秩序な価格競争を抑制する「反内巻」政策を打ち出しているが、企業側は新モデルの連続投入などで実質的な値下げを続けており、過剰能力の是正は容易ではない。今後の動向を注視する必要がある。

■パネル討議

岡嵜研究委員は、中国の産業支援を金融面から分析。人民銀行による特定分野への低金利融資や政府系ファンドが資金配分の要となり、政府の統制が効く銀行融資が産業支援の中心にある実態を報告した。当面は金融主導の支援が続くと見通す一方、不動産在庫の重さが需要刺激を妨げ、消費者ローンの伸びも力強さを欠くなど、需要サイドの改善には課題が残ると指摘した。

丁研究委員は、過当競争の是正策として「全国統一大市場」の構築と製造業の海外展開を提示。前者は要素市場の一体化や過度な優遇措置の是正による市場分断を解消する取り組みであり、後者は関税回避と収益性確保を目的とする拠点分散と説明した。 これに対し梶谷研究委員は、海外進出が進めば企業(GNP=国民総生産)は成長しても国内経済(GDP=国内総生産)への波及は限定的になる懸念を示唆した。

議論では、高付加価値財や研究開発機能の国内維持などが中長期的な課題になるとの認識が示された。

最後に日本への示唆として、梶谷研究委員は「謙虚に学ぶ姿勢と戦略的交流」、岡嵜研究委員は「特区的な社会実験のスピード感」、丁研究委員は「民間活力を引き出す競争促進型政策」を挙げた。

川島研究主幹は、日中が相互に学び合う姿勢を保ちつつ、内需不足などの共通課題を冷静に見据え、フラットな視点で中国経済を捉えることの重要性を強調して締めくくった。

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